
◆バイオ系の学部は就職が悪いって聞くけど、実際に進学した人の意見を聞いてみたい!
◆ネット上でバイオはオワコンって聞くけど、本当にそうなの?
今回の記事ではバイオ系学部に進学予定の高校生や、実際に所属している学部生にとって参考にしてもらいたい内容となっています。
本記事のまとめ
- バイオに関する知識は社会でほとんど役に立たない
- 同じ大学のバイオ学生と工学部生を比較すると、30代時点で年収が100万円近く違う場合もザラにある!
- 生き物を研究対象にするため、実験生物の世話が中心の生活を送る必要がある
- バイオ学部は文系学部の一部と考えて進学すること
こんにちは!ふくろう博士(@college_blog01)と申します。
近年、移植医療や遺伝子組み換え食品といったバイオテクノロジーに関するニュースを耳にする機会が増えたと思います。
遺伝子組み換え作物の安全性に関する議論や、iPS細胞の実現化に向けた取り組みについて目にした方も多いでしょう。
また、新型コロナウイルスに対するワクチンの増産を各国のバイオベンチャー企業が手掛けると発表されており、バイオ技術は実社会に大きく貢献しているように思えます。
バイオ系学部に進学した学生の多くは無限の可能性を持つ「バイオテクノロジー」を研究し、学者や企業研究者として成功することを夢に見ます。
しかし、バイオ関連を専門とした就職はたいていの場合上手くいきません。
実際に農学部の大学院を卒業した筆者の実体験から、世間でバイオ・生物系と呼ばれる学部の就職状況について詳しく解説したいと思います。

インターネット上ではバイオ系学部に対してネガティブな意見が多いけど、実際に農学部を卒業した人からみて正しいの?

バイオ系学部が抱える問題点の本質を突いている指摘が多いと感じたよ。
今回の記事でもバイオ系学部の問題点を指摘しつつ解説します!
バイオが就職に弱い理由
なぜバイオ系は就職が悪いのでしょうか?
私が就活時に感じた生物・バイオ系学部の問題点について解説していきたいと思います。
世間の需要が少ない
就職で強いといわれている工学部と比較して、生物系の需要が少ない理由はなぜでしょうか。
理由の一つとして、実社会に必要とされる専門知識ごとの需要量に大きな差があることが挙げられます。
一般的に就職に強いとされる工学部について比較してみましょう。
工学部では、基本的にすべての学科で4力と呼ばれる工学の基礎を学びます。
4力とは、
「材料力学」,「流体力学」,「熱力学」,「機械力学」の4つの力学
引用:4力とは
の総称です。
4力は現実社会に存在するすべての機械や建設物に関連しているといっても過言ではなく、
- 自動車のエンジン作成
- 建物や橋の建設
- 各種工場やプラントの建設
- 工場・プラント内の各種機械
- 家電・電子機器類全般
私たちの身の回りの製品はすべて4力に関する知識がなければ存在しません!
それくらい大事な概念なのです!
バイオ系学生にとって人気な食品業界や製薬業界でも、商品を生産する現場が工場で機械設備がある以上一定の機械系技術者は需要があります。
一方で、生物系の専門を生かせる分野は製薬・食品の研究開発職と非常に限定されています。
これらの職種は毎年若干名の採用がほとんどであり、景気が悪化した場合真っ先に採用数を削減されやすい部門です。
大手の食品・製薬会社の倍率は大変高く、人気企業ランキングで毎年上位の味の素では理系技術職の採用で115~230倍程度の採用倍率と推定されます。
非公式な数字ですが実際にこのくらいの採用倍率と考えて間違いないでしょう。
採用大学の学歴も当然高く、大手食品企業の選考は「一流大学の就活生同士の争い」であることを理解しなければなりません。
バイオ系の研究室では大手食品企業に絞って就活を行った結果不採用が続き、結局専攻と何の関係もないIT企業に就職する学生は毎年一定数存在します。
社会にとって、バイオ系の専門知識を持つ人材は優秀なごく一部の学生を採用すれば十分なのです。
就職活動で推薦等の優遇が少ない
理系大学生(特に大学院生の場合)の就職活動と聞いて、推薦一発で内定が決まる印象を抱いている方が多いのではないでしょうか?
推薦には大きく分けて
・学内推薦
・教授推薦
に大別されます。
一般的に推薦とは学内推薦のことを指します。
この学内推薦ですが、同じ大学でも学部・学科レベルで企業の数・質共に大きな差があります。
工学部の機械工学、電気電子工学といった分野では学内推薦は多く、ライフサイエンス系の学部ではほとんど推薦がありません。
また、工学系の推薦は多くが大手企業であるのに対し、ライフサイエンス系の推薦は準王手~中堅企業の食品会社であるのが現状です。
30歳時点での推定年収が100万円近く違うということも・・・
このように、同じ大学に入学した学生でも、学んだ内容によって就活時に大きな差がつきます。

所属する学科が違うだけで募集企業の平均年収が100万円も違うなんてあり得るの?

デザインや機能面で競合他社と差別化が行いやすい製造業と違って、食品業界は他社との差別化のために値下げ競争に陥りやすいんだ。
コスト競争で利益率が低くなった結果、社員の給料に反映されにくくなるという理屈だね。

なるほど。
車の場合は「高くてもトヨタ車がいい」という人が多いけど、食料品の場合は「値札を見て安いものを買おう」と考える人が多い、ということだね!
就活と研究の両立が困難
バイオ系の学生は自由応募による選考を行う人が大半ですが、就活と研究の両立が課題となります。
当然ですがバイオ系学部の研究対象は微生物やマウス、植物といった生き物です。
これらの生き物に対して何らかの処理(薬物の投与や遺伝子の変異)を行うことで健康な個体との違いを比較し、その原因を追究することが主な作業といえます。
そのため、実験結果が出るまで研究対象となる生物は健康状態を保つように毎日誰かが世話をしなければなりません。
そして、ほとんどの研究室では学生自身が実験生物の世話をします。
就職活動中でもです。
自分の実験生物は自分で世話をしなければならないため、就活中の忙しい時期でも定期的に研究室に行く必要があります。
20卒の就活ルールでは、実際の就活期間は3ヶ月~半年程度が主流でした。半年間就活と研究を両立することは非常に大変です。
仮に実験生物が実験中に死亡した場合、これまでの実験結果はすべて無になります。
最悪の場合卒業が危ぶまれるため、バイオ系学生にとって実験生物の世話は死活問題なのです。

自由研究のアサガオの観察とは訳が違うからね。
研究室単位で迷惑がかかるから、実験生物をダメにした奴は最悪研究室にいられなくなるかも…
実社会で強みとなるスキルが身につかない
個人的にバイオ系の進学をオススメしない最大の理由として、社会に役立つスキルが身につかない点が挙げられます。
以下の引用文ではバイオ系学部の問題点を端的に表現しています。
●バイオ系学科の特徴
→基本的に実験はねるねるねるね。ただ混ぜるだけの単純作業。
よって就職市場での技術価値は皆無。しかし時間の束縛は多い。
コストパフォーマンスは理系で最悪。しかも理数系の素養はまったく身につかない。
バイオ系学部は座学で、生態学や遺伝子学、進化学を主に学びます。
学科によっては基礎的な有機化学や量子力学を学びますが、化学や物理を専攻する学生と比較して数理的な知識量は少ないです。
バイオ系学部が専門的に学ぶ学問に共通することとして、博物学的要素が非常に強い分野ということが挙げられます。
つまり、「偶然放射線を浴びせたら今までと違う形質を持つ大腸菌が生まれた」というような偶然性の積み重ねによって発展した学問ということです。
これらの学問の問題点として、理系学生が身につけるべき学問の素養が身につかないことが挙げられます。
本来生物学とは化学・物理学的素養が十分に身についた研究者が挑む難解な学問です。
植物の光合成について研究する場合でも、前提知識として量子力学の素養が必要です。
しかし、大学院の院試レベルでも
ヒトの代謝で利用される 20 種のアミノ酸のうち,生合成できない( ア )は食物から摂る必要があり,ヒトでは 9 種類のアミノ酸が該当する。そのほかのアミノ酸は,肝臓などで合成され,その多くは( イ )が触媒する。
引用:東北大学大学院 過去問
このような「穴埋め問題」を行う程度には博物学的思考が浸透しています。
当たり前ですが、これらの知識を知っているだけでは社会では何の役にも立ちません。
科学的根拠を理論的に解析できる人材でなければ、理系人材を雇うメリットがないのです。

個人的にはバイオ系学部で最大の問題だと思うよ。
微生物を扱う研究室でも、対象生物を単離(目的の微生物のみを分けて培養すること)すらできないなんて当たり前だからね。
バイオ系学部の教育が悪いというわけではなく、バイオ系学問が実社会に応用できるほど発展していないといった方が正しいみたいだね。
まとめ
今回の記事では、バイオ系学部の問題点について解説しました。
現役のバイオ系学部に在籍している学生にとっては少し刺激的な内容だったと思います。
今回の記事ではバイオ系学部に対して批判的な内容でしたが、バイオ系学部に進学するな!といった意図の記事ではありません。
あなたやあなたの周りの人間がバイオ系学部に進学を考えるときに、これらの内容を加味して進学するのであれば理解してほしいと思います。
実際に農学部を卒業した私の意見は「生物系の学部は文系学部として進学する」心構えが大切だと思います。
バイオ系学部は生物の神秘を解明することができるロマンがあります!
自分の興味関心が生物にあると感じる人にとって魅力的な学問であることには間違いありません。
記事の内容が少しでも多くの方に役立てたら幸いです。
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